小さな葬式でも、心に残る大切な思いが詰まっていました。

心に残る葬式といえば、父親の葬式です。父親はとある会社の社長でした。生まれは地方の海岸沿いの街の田舎者で、父親は船乗りでした。祖父は世界の航海から帰ると、商売を始めましたがもともとやる気がなかったため、すぐに失敗してしまいました。ここで父親が店を引き継ぐことになりました。

最初は竹の皮の販売を東京で始めました。竹の皮は、おにぎりや団子や餅などを包装するために使用され、繁盛し父はある程度の財産を得ました。そのとき、近くのガス会社から使用済みのコークスが大量に捨てられているのを聞きつけ、それを無料でもらってきて、抗菌剤の材料として衛生局に収めたりしてさらに富を得ました。父はかねてより夢だった、自動車の整備工場兼販売所を開きました。父親は小さい頃から、自動車が好きでいつか自動車の仕事をやりたいと思っていたからです。最初は売れませんでしたが、少しずつ口コミで売れるようになってきました。そして、トラックなどの商業車も扱うようになると、高度成長期の時代の波に乗り大ヒットしました。父の会社は、社員が10人程に増えて繁盛していました。

その後は、トラックのリースなどでさらに繁盛し最後は有能な社員に店を任せました。父は定年して数年後に死にました。会社は30人ほどの規模になり、小さいながらも安定した経営を続けています。竹の皮屋からここまでの会社にしたのは、立派だと思います。葬式では、父親の奥さんと私たち家族と社員の何人かと親戚で行いました。葬儀では火葬場へ向かう際は、父親が好きだった車種を選びました。何よりも車が好きな父親でしたから、きっと喜んだはずです。葬儀では社員の何人かが泣いていました。それはより父親を知る社員達で、きっと当時のことを思い出したのです。当時の経営は順風満帆に見えましたが、最初はトラックなどの商業車を扱うのに苦労していました。

社員達は、遺影の前で立ち止まり、丁寧にお焼香をした後、深々と頭を下げました。それは見ている私たちも心を打たれる光景でした。葬式で流れる曲も父親が好きな歌が流れました。父は切腹や自殺ではなく、仕事を全うして死にましたので何も思い残すことはないでしょう。仕事を成功させた父の周には彼を慕う人々が集まったのです。この小さな葬式でも、心に残る大切な思いが詰まっていました。