心に残る葬儀は、子供の頃に始めて経験した祖父の葬儀です。
家族を亡くしたのが初めての経験で、両親は慌ただしく周りは知らない大人ばかりと、本当に心細い気持ちでいっぱいでした。ところが、いざお通夜や告別式が始まると、心は穏やかになって祖父を亡くした実感が湧いてきました。お通夜はしんみりとした雰囲気の中で、大人たちが思い出話に花を咲かせています。
当時は子供で同世代の人がいなかったことから、お通夜でも一人になってしまったことを思い出します。ただ、一人でいたところを話し掛けてくれた親戚のおじさんがいて、心細さはいつの間にか消えていきました。そのおじさんは祖父との付き合いが長く、色々な思い出話をしてくれました。
祖父の知らなかった一面に触れられたことが嬉しく、ついあれこれと話し込んでしまいました。布団に入る頃には不安な気持ちはなくなり、初めてのことばかりで疲れたのかすぐに眠りにつきます。夢の中で祖父らしい人物が現れましたが、顔はぼやけて見えずほぼシルエットだけでした。
しかし、口元はハッキリしていて、声は聞こえないものの何か言っているようでした。この夢は今でも強く心に残るものなのですが、何度考えても祖父が何かメッセージを伝えようとしたのだと思います。そして告別式を迎えたその日、至るところで祖父の気配を感じることになります。最初は気のせいだと思っていましたが、気配を感じて振り返る度に、祖父らしい人影が一瞬だけ見えるのです。親に話しても信じてもらえず、また心細い気持ちになりかけましたが、親戚のおじさんに話をすると大きくうなずいて信じてくれました。
どうもおじさんも同じ気配を感じていたようで、祖父はお別れの様子を陰ながら見守っているのではないかとのことでした。
初めての葬儀が心に残るインパクトの強いものだったので、それから誰かの葬儀の度に祖父の葬儀を思い出すことになります。お坊さんの読経や参列者のすすり泣く声、お焼香のニオイやひんやりとした重たい空気を鮮明に覚えています。
大人になってから思い出すと、祖父は多くの人達に愛され、その愛を子供や孫にも与えてくれたのだと感じます。
いたずらをして叱られたこともありますが、普段は優しくいつも笑顔で接してくれた祖父です。
子供の頃はそれが当たり前でしたが、時間が経ってから寂しさが強くなり、今では度々祖父に会いたくなります。
ふとした瞬間に寂しくなるのは確かですが、心に残る体験は貴重な宝物で一生忘れることはないでしょう。